2010年7月19日月曜日

健康だより 14号 編集者 後記

編集者 後記 禁煙による「がんの予防効果」について
記事では詳細を紹介できなかったが関連する研究報告はいくつか存在している。

最も古いものはアメリカの公衆衛生長官が1990年に公表した『禁煙による健康改善効果』に関する報告書の結論部分で、「50歳以前に禁煙した者は、喫煙継続者と比べてその後15年間の死亡率が半減する」と明記したことにはじまる。

その後、イギリスの「英国たばこ白書(1998年)」で記された記事が禁煙の効果を語る現在の指標となっている。内容は以下のとおりである。

禁煙を実行してから・・・

20 分後には     血圧や脈拍が正常化し、手足の血のめぐりも良くなる。
8 時間後には     血液中の酸素濃度が正常化し、心臓発作をおこす危険率が低下しはじめる。
24 時間後には    体内から一酸化炭素が除去され、肺の汚れが消えはじめる。
48 時間後には    体内のニコチン濃度がゼロになる。
72 時間後には    呼吸が楽になる。
2∼12 週間後には 体全体の血液の流れがスムーズになる。
3∼9 ヶ月後には   肺の機能が 5∼10%上昇し、ぜんそくなどが改善する。
5 年後には     心臓発作を起こす危険率が喫煙者の約半分に低下する。
10 年後には    肺がんになる危険率が喫煙者の約半分、
            心臓発作を起こす危険率が非喫煙者とほぼ同じになる。
〈英国たばこ白書 1998〉

他方、アメリカでも「国立がん研究所(NCI)」を中心に同様の試みがされており、中でも「米国肺協会」が作成した禁煙に関する広報資料は現在、日本医師会による「禁煙キャンペーン」の文献資料にも採用されている。

こうした一連の流れの中で一番新しい報告書は、国際がん研究機関(IARC)が2007年に公表した報告書“Reversal of Risk After Quitting Smoking” で、ここでは「禁煙後5~9年で現在喫煙者と比べて明らかにリスクが低下する」と禁煙の効果が明記されている。

これらの報告書が共通して明らかにしていることは
「禁煙による肺がんのリスク低下は最低5年以上経過しなければ現れない」
という点で見解が一致していることである。

肺がんの原因は、古くから「タバコ」であると見なされてきた。
これはある意味で正しくもあり、ある意味で正確な情報ではない。

今回取り上げた「肺門型」が喫煙によって死亡率があがることは、「標準化死亡率」を算出することで数値上で確認することは可能だが、それはあくまで肺がんによる死亡率全体の20%程度を占めるに過ぎない(※1)。残りの大半が「肺野型」であり、実はこの「肺野型」が何に起因して発生率をあげているのか、そして近年になって増加傾向にあるのか、この要因の解明には至っていないのが実情である。

タバコに相当する明瞭な生活習慣を指摘した上で肺細胞のがん化を説明できていないことは同時に、非喫煙者に目を向けた研究と要因の特定がいまだ未開拓分野であることを裏付けている。

我々はこれまでのところ、タバコの摂取が人体における肺細胞のがん化に拍車をかける傾向にあること、すなわちがんを誘発する因果関係を持ちうることを明らかにしてきた。だが、それは同時に次の問題提起を常にかかえるものでもあった。

「喫煙経験がないにもかかわらず肺がんにかかる場合があるのはなぜなのか」
そろそろこの問いに真剣に答えを出す時期に差し掛かっている。

その意味で、米国の研究チームが今年の3月に発表した研究内容は注目に値する。彼らが英医学誌「ランセット・オンコロジー(Lancet Oncology)に投稿した論文によると「非喫煙者の肺がんの中にリスクを高める遺伝子を発見した」とあり、これが今後、どのような進展をみせていくのか楽しみである。  (T.記)

(※1 肺がんを細胞の形態で分類した場合、「喫煙者のがん」といわれる『扁平上皮がん』は肺がん全体の20%を占め、肺の末梢に発生する『腺がん』は肺がん全体の60%を占めている。現在のところ、腺がんの発症原因の特定には至っていない≪癌研究会 参照≫)

≪参考サイト≫
癌研究会:肺がん
http://www.jfcr.or.jp/gan_knowledge/lungs.html
・英国たばこ白書 1998
・米国 国立がん研究所(NCI) 
http://www.cancer.gov/
・がん情報サイト(※ 国内唯一のNCI契約サイト)
  「がん患者における禁煙と継続するリスク(専門家向けコーナー)」から詳細が確認できる
http://cancerinfo.tri-kobe.org/
・海外癌医療情報 リファレンス (喫煙と癌 Q&A) ※主な情報源はNCI
http://www.cancerit.jp/xoops/modules/nci_factsheet/index.php?page=article&storyid=331
・日本医師会 禁煙キャンペーン
http://www.med.or.jp/nosmoke/canser/cont/0601.html
・国際がん研究機関(IARC) “Reversal of Risk After Quitting Smoking” 2007
 ※ 提供:日本 国立がん研究センター/サイト内 目次5「禁煙の効果」を参照
http://ganjoho.ncc.go.jp/public/pre_scr/cause/smoking.html
日経BPネット:「肺細胞に対するタバコの悪影響、禁煙20年後も継続 米研究」 2001.07.26
http://www.nikkeibp.co.jp/archives/136/136208.html
・AFPBB:「非喫煙者の肺がん、リスク高める遺伝子変異を発見 米研究」 2010.03.22
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2711921/5525308
・その他、禁煙による健康上の効果に関する情報まとめ
http://www.nosmoking.jp/metaboricc/double.html
・喫煙開始年齢とがん発生率との関連について(国立がん研究センター)
http://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome_entry/age_smoking_cancer/
・喫煙の健康影響について(厚生労働省)
 「喫煙開始年齢別肺がんの年齢標準化死亡率/平山雄による 計画調査(1966~82年)」
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/qa/detail5.html
がん研究振興財団 「やさしいがんの知識」
http://www.fpcr.or.jp/publication/knowledge.html